2016年10月29日

クリスマスの贈り物

     1

 ――また、寒くなってきた。

 あたしはそう考えて息を吐く。
 息は白かった。
 もう冬が近くなっている、合図だった。
「もうあれから――」
 もうあれから、どれだけの時間が経ったことだろう。
 ジョウト全域を襲った『仮面の男』事件が終わったあと、私とシルバーはそれぞれの道を歩み始めた。……どこぞのバカが「チャンピオンと一緒に修行にいくっす!」とか言い出して、「いっそみんなで暮らすか」と言った奴を連れ出しちゃったけれど。まあ、戦闘狂なのだから仕方ない。
 そういうわけで今日はクリスマス。レッドの馬鹿が帰ってくるのは今日だったはずだから、そのためにトキワにあるグリーンのジムで準備。ああ、一応グリーンには報告しておいたわよ? もちろん、許可も得ている。
「何が、許可を得ている、だ。この性悪女。ポケモンバトルで強引に手に入れた癖に」
 おほほ、いったい何を言っているのかしら? 私にはまったく解らないことだけれど。もしかして妄想を見ていたりしない?
「あんな具体的な妄想がどこにある。水が出なくなったカメックスが砲口を出し入れすることで攻撃するとか、そんなことポケモンバトルじゃ邪道だぞ、邪道」
「勝てばいいのよ、勝てば」
 おほほ、と笑いながら私はグリーンのもとを後にする。様子を見に行かないといけない場所はほかにもあるの。現場監督って大変よね。ほんと。



 さて。やってまいりましたはキッチン。
 ここでは二人が調理をしているのだけれど……キッチンに近付くにつれて、チョコレートのいい香りが広がってくる。ああ、いい香り。チョコレートケーキでも作っているのかしら。
 キッチンに近付くと鼻歌が聞こえてくる。これはイエローかな。イエローはレッドが帰ってくると知っているから、上機嫌よねえ。
「ぶ、ブルーさん! いつの間にそこに居たんですか? しかもビデオカメラ回していますし!」
 いいじゃない、別に回したって。見るのはレッドくらいだから。
「レッドさんが……?」
 おやおや、満更でもない様子。
「ブルー先輩、イエロー先輩のことをいじめないであげてくださいよ」
 そういったのはクリスタルだった。ほんと、あのギザギザ髪のゴールドのセリフを盗むようで悪いけれど、学級委員タイプよねえ。ここまで学級委員めいた人間も見たことが無い。まあ、だからこそあの三人の統制がとれているのかもしれないけれど。
「ブルーさんは、プレゼントの用意をしてください。きっと、ゴールドあたりがプレゼントで一喜一憂すると思いますから」
「私にプレゼント選びをさせたのだから、センスを疑わないほうがいいわよ?」
 私のセンスはピカイチといってもいい。少なくとも図鑑所有者の中ではね。
 そのセンスを疑われるのだから、少々私にとっても不満が募る。ほんとうに、困る。
「いや、別にブルー先輩のセンスを疑っているわけではなく……、きちんと準備が完了しているのか、と思いまして。実際、ブルーさんがプレゼント係ですから。プレゼント係が失敗する、イコール、クリスマスの失敗に繋がりますよ?」
 学級委員というのはほんとうに的を射たたとえだ。言い方も回りくどいし、発言もどこかインテリ気味。別にそれがダメだとは言わないけれど、少しは息抜きした方がいいかもよ? まあ、ポケモン塾でも子供に慕われているというのは聞いたことがあるけれど、その性格あってこそ、なのかもね。ゴールドと彼女のやり取りが、それにそっくりだし。
 ……さてと、ここのチェックも終わり。
 私はプレゼントの確認に取り掛かろうかしら。



 トキワジムにはなぜか暖炉がある。高級思想だったのかもしれない。因みにグリーンにそういう思想があったのか、と言えばそうでは無かったらしく、単に前のジムリーダーの趣味だった可能性が高い。……もしそうだとしたら、最高に悪趣味ね。
 まあ、そんなことはさておき。その暖炉も今やクリスマスの定番として、使われているのだから、元の持ち主も少しは報われるでしょ。誰だか知らないけれど。
 プレゼントは全部で六つ。私を除いた、図鑑所有者たちの分。私のプレゼント? 私はプレゼント手配係だから必要ないのよ。経費で落ちるならともかく、これ私の自腹が七割だし。だったら自分のものはあとで、自分で買うのが一番、ってこと。
 プレゼントの見分け方は簡単。包装紙がそれぞれの色になっている。流石にクリスタルの包装紙は無かったので、白で代用しているけれど。……さすがにホワイト、って名前の図鑑所有者が現れることは無いわよね? もし現れたら、どうしようかしら。まあ、それはその時考えることにしましょう。今考えても何も変わらないし。
「姉さん」
 声が聞こえた。
 若干低いその声を、私が間違えるはずも無かった。
 私は振り返る。
 そこに立っていたのは赤髪に黒い服、黒い手袋をつけた少年――傍らにはニューラが居る――だった。
 少年の名前はシルバー。
 ――私の大切な存在だ。
「どうしたの、シルバー? もしかして、クリスマスのプレゼントが気になっちゃったとか?」
「べ、別にそういうわけじゃないよ。姉さんから貰えるのなら、何だって嬉しい」
 そうかそうか。シルバーは実にいい子だ。私はそう思いながら髪を撫でる。
「なんだよ、姉さん。別にそんなことされるような年齢でも……」
「あなたがされたくなくても、私がやりたいのよ」
 理不尽なことだとは思うけれど、私が彼の髪を撫でてあげたいのは事実。だって、この艶……オトコの髪とは思えないもの。そういう問題か、ってグリーンに言われそうだけれど、案外そういう問題。
「……姉さん、まだ撫でるつもり?」
「ああ、ごめんね」
 ずっと撫でていたからか、シルバーが不機嫌になってしまった。おほほ、けれど不機嫌なシルバーも可愛い。何と言うか、手をかけてあげたくなる。ずっとそうだったから仕方ないかもしれないけれど。
 何年もの間、私たちは仮面の男を追い続け、そして倒した。時空のはざまに、彼を追い込み――そのまま飲み込まれていった。もう二度と会うことはないだろう。
 その恐怖から逃れた――言い方は若干おかしいのかもしれないけれど――私たちにとっては、今こそが幸せなのだ。
「姉さん」
 シルバーが私に問いかける。
「何、シルバー?」
「俺から姉さんに、プレゼントがあるんだ」
「プレゼント?」
 そんなこと、知らなかったから――私はきょとんとしてしまった。
 その直後――シルバーは私に口づけをした。
 それはあまりにも突然すぎて――判断が一瞬遅れてしまったけれど――でも、はっきりとシルバーの唇の温かさと柔らかさが伝わった。
「姉さん」
 口づけが終わり、私に告げる。私はどんな表情をしていたのか、まったく解らない。顔が真っ赤だったかもしれない。実際は解らないのだけれど、もし真っ赤だったなら、とても恥ずかしい。
「メリークリスマス」
 彼の言葉が――ただ胸に響いた。ただの言葉だったのに。言葉だったのに――でも。
 窓から外を見ると、雪が降っていた。
 今日はホワイトクリスマス。
 時間的にそろそろレッドとゴールドが帰ってくる頃だろう。
「さあ、シルバー。レッドたちを出迎えるわよ」
 そう言って私は手を差し出した。
 シルバーは頷いて、私の手を握り返した。


終わり。
【PKSP短編の最新記事】
posted by 巫夏希 at 14:15| Comment(0) | PKSP短編
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