2017年06月24日

第一話

 どこかの時代。

 どこかの世界。

 ある世界に、ポケモンとともに暮らす世界があった。

 彼らはポケモンとともにすごしていた。

 そして、それに警鐘を鳴らしていた一派があった。

 俗に『プラズマ団』と呼ばれ、その首領ゲーチス。

 彼の野望を阻止するため、いく人かの『能力者』が立ち上がり、戦いを繰り広げた。

 そして――それから、遠い年月が経った。

 その年月は人を子供から大人へ成長させるのに等しく。

 その年月は『勇者』に憧れた子供を成熟させるのに等しかった。

「ティエルノ! 今日もやろうぜ!」

 黒い髪の少年――傍にはフォッコがいる――が、ティエルノと呼んだ少年に訊ねる。

 ティエルノは少し大柄な少年だった。ヤンチャムに似ていてやんちゃな性格らしいが、その柔和な顔からはそうだととても想像つかない。

「……ごめん、イクス。今日はちょっと無理だ」

「えー! なんでだよ? だって、昨日は『明日も組手やろうなー!』って言ったじゃんか」

「ごめん。けれど……」

 ティエルノの背後にはひとりの老人が立っていた。そして、イクスはそれが誰だか解っていた。

「長老様……どうしてですか?」

「イクス、仕方ないことなのだ。我がアサメ村には……カミサマが宿らなくなるのじゃよ。このままでは、村の民が皆死んでしまう」

 長老はとても悲しげな表情で呟いた。

 勇者という存在は、世界に安寧を導いたかのように思われた。

 しかし、実際にはそれだけではなかった。

 世界に安寧が齎されただけで、結局は元の為来りはそのままなのだ。マイナス成分が強かったのが、調和されただけで、元々の差分はそのまま残っている。つまりは、そういうことなのだ。

 イクスたちが住むこの地方は、俗に『ポケモンが生まれた地』と呼ばれている。初めてポケモンが生まれた地であって、初めて人々とポケモンが心を交わした地であった。

 ポケモンという存在の起源をたどることは、この世界ではタブーとされている。多くの研究者がそれを研究し、そして発表したが、いずれも話題集めのデタラメに過ぎず、結局は誰にも解くことのできない、カミサマの問題なのだと、結論づけている。

「……仕方がないのじゃ。イクス、これも世界の宿命。寧ろ『安定化装置』に認められたことこそが、素晴らしいと思うべきなのじゃよ」

 『安定化装置』。

 この世界の中心にある、世界の安定を諮るシステムのことだ。それは組織であるし、システムであるし、個人である。しかしながら、それの全容を知る人間は数少ない。それが出来たのはつい数年前のことである。今までは隠れていた存在だったのか、それとも本当に居なかった存在なのかは知らないが、大多数の人間がそれを知ることはない。

 そして、安定化装置に選ばれた人間こそは『聖堂騎士』として任命され、中央にある安定化装置を守るための防御に就く。そして、いつからかそれは名誉になり、選ばれることが生きている意味に等しいとも考える人間も居るほどだ。

「なあ、イクス。僕は嬉しいんだよ。これでも。なんてったって、『聖堂騎士』に選ばれるんだから」

 ティエルノは笑って、腕を挙げた。ヤンチャムもそれを真似するようにポーズをとった。

 イクスはそれに返すように小さく笑った。

 しかし、まだ彼らは知ることはなかった。これから始まる、大きな物語を――。

【名のなき世界3の最新記事】
posted by 巫夏希 at 23:48| Comment(0) | 名のなき世界3
この記事へのコメント
コメントを書く
お名前:

メールアドレス:

ホームページアドレス:

コメント: