2017年06月25日

第三話

 その頃。

 遠く離れた、ある国でのこと。

 かつて『強者』ばかりを集め、トーナメントというかたちで最強を決めるということをしていた、とある国のことだ。

「……お逃げください、陛下。この国は既にもう……!」

 栄華を誇った王城は至るところに火が放たれ、最早その姿を為していない。

 そして、その城に残っているのも、王と僅かばかりの部下だけとなっていた。

「……市民は無事に逃げることはできたのか?」

「はい。特に問題もなく、混乱もなく、他国へ逃げることが出来ました。同盟国であるアルデルトンへはスムーズに行くこともできました。アルデルトンの魔術師たちが居たから出来ることでしょう」

「そうか……。ならば、もう思い残すことは、ない」

 王はそう言うと、小さく息を吐いた。

「……! 陛下、なりません! 陛下はまだ頑張ってもらわねば!」

「この老いぼれにできることなど、とうに消えているよ。それに、もう時代も変わりつつあるのは自明だ。だったら、今消えるのがいい時期だとは思わないかね」

「そう……なのでしょうか」

「ああ。そうだ。そして、私から君たちへ、最後の命令を下す」


 ――生きろ。


 その言葉に、部下全員は息を飲んだ。

「どんなにみすぼらしくてもいい。這い蹲ってもいい。ただ、生きろ。どんなにみみっちくてもいい。どんなに最低な生き方をしてもいい。ただ、生きるんだ。いいか。生きろ。生きてくれれば、それでいい。いいか――」

 そして、その言葉は。

 ケサムドー城にいた、人間全員が永久に忘れることがなかった。

「――私とともに死ぬなんてことは許さない」


 ◇◇◇


 そして、そのニュース――『ケサムドー陥落』がイクスの耳に入ったのはそれから数日経ったある日のことだった。

「ケサムドーが陥落した……って。勇者の居た場所じゃないのか!?」

 イクスはいつもの秘密基地に来ていた。いつもイクスはここで遊ぶ。幼馴染のサナとトロバといつもここでポケモンバトルをする。

「僕も風の噂で聞いたんだけどね。なんでも、勇者は死んでしまったらしいよ」

「そんなわけがあるか! 勇者は生きているんだ。こんな、世界が危なくなる時にやってくるに決まっている!」

「けど、来てないよ、イクス」

 トロバの言葉はイクスに突き刺さる。

 そう、勇者は来ない。

 勇者は――死んだ。

 その事実を、受け止められずにいた。

 だがしかし。

 けれども。

 彼は諦めたくなかった。そんなのは嘘だと信じたかった。いや、信じてみたかった。正義は必ず勝つのだということの、典型的な例こそが『勇者』というパッケージである。だからこそ、人々は勇者という存在にすがり、生きるのだ。

 だが、今はどうだろうか?

 今は、勇者と呼ばれる存在を、誰も信じていない。つまりは、勇者にすがる者等いないということだ。

「勇者という存在がなくなった、とトロバは思っている?」

 唐突に。

 本当に、唐突に、イクスは尋ねる。

 尋くのも阿呆らしい質問になるのかもしれない、とイクスは自嘲する。

 しかし。

「……信じているよ。きっと、勇者は、いる」

 トロバはそうはっきりと答えた。

 そして、それを見てサナも、笑ってうんうんと頷く。

「勇者という存在は本当にいると思うよ。それに、居なくちゃ、この世界はとうに滅んでいたかもしれない。そうだろ?」

「だな。そうだな」

 イクスは自らにも再確認をとり、大きく頷いた。

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posted by 巫夏希 at 00:02| Comment(0) | 名のなき世界3
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